備忘録 朝焼けは汚濁の乱反射

本質を視る R-18 (作家の執筆活動と作品の公開の権利を侵害したアメーバ、作家の執筆活動と作品の大成を阻害したPeing、作品を侮辱しかつ本来と異なる形での公開を余儀なくさせたTwitterJPに対し、遺憾の意を示すと共に厳重に抗議いたします。)

夜空・破滅の淵(前編)

その男はSNSの人々を夢と期待で躍らせた。

その男は月と人類を近づけるために名乗り出た。

その男は大物女優との交際と破局で巷を賑やかせた。

彼の名前は前澤友作。その資産を世のため人のために生かしてきた実業家。

しかし、その本質はある事件により歪に捻じ曲げられていた。新たに起業した会社を舞台に、薄れつつあった過去は這い寄り、友作を終末へ誘い始めたのだった。

 

 

 

『夜空・破滅の淵』

 

 

 

一.

「はい、おはようございまーす。友作です。」

今しがた、友作は動画サイト「YouBoob(名誉毀損で訴えられないよう仮名)」で「YouBoober(名誉毀損で訴えられないよう仮名)」としての活動も行いながら、着々と新事業の立ち上げへ動き出していた。

彼は自室で動画を撮り終えると、雪化粧に染まった美しい街を、窓越しに眺めながら感傷に浸る。

「もうあの企画から一年、か。今年はどうしようか。ハハ」

"あの企画"とは、2019年の正月にSNS上で行われた「前澤友作からのお年玉!総額一億円プレゼント リツイートキャンペーン」のことだろう。元々起業家として有名であったとはいえ、お年玉キャンペーンはマスコミや国会をも巻き込んだ大騒動になり、いずれにせよ彼の知名度は格段に高まったのだ。

 

「…………おいおい、お年玉を二つもぶら下げてるじゃあないか。」

「早いもの勝ちだぜ!欲張りだが俺が二つともいただこう。ジュポッ…………」

 

「…………!!!」

 

幻聴に耳を塞いだ。

一面の白景色があの時明滅していた視界に、降り注ぐ雪が精液に見え、咄嗟に目も瞑ってしまう。

「…………」

 

 

彼は心を落ちつかせ耳から手を離すと、力強くカーテンを締め切ってしまうのだった。

 

 

 

今日という日は、友作にとって一際特別な一日である。SNS上で募集をしていた『経営企画室の初期メンバー』と、共に事業を作り上げる"仲間"として初めて顔を合わせる事になっていたのだ。

彼が募集を呼びかけた時には、多くの人々が志を示した。ある者は今後起業家として歩むためのキャリアを手に入れるため、または既に積み上げてきた経営のキャリアを生かすため、或いは社会が向き合うべき課題を共に解決するため、そして友作の側近という立場や高額の年収のため。理由は違えど皆全てが未来の大企業の椅子を手にするため彼の元に集ったのだ。

 

その審査は当然ながら熾烈を極めた。書類審査の時点で数万人もの人間がお祈りを受け、課題審査や一次面接を突破し、やっと友作との対面が叶う最終面接まで漕ぎ着けられた人間は50人にも満たなかった。

熟考の末に友作は、過去に経営企画の側近としてのキャリアを持つ2人の壮年男性に加え、まだ年若いフリーターの青年を採用する事に決めた。本来、募集要項の採用人数には1〜2人と記載していたが、急遽枠を増やした形となる。

 

スタッフとの最終選考の折、友作が追加枠として青年を採用したいと打ち明けた。青年は最終選考に残るほどには独創性を持ち合わせていたが、他の最終候補者と比べるとその個性はやや埋もれてしまっていた。経営関係の経験も持ち合わせていないこともあり、ほとんどのスタッフから早々に採用候補から除外されていたのだ。その人材を突然枠を増やしてまで仲間に加えたいと言い出した社長に対し、反対というより困惑が大きかった。

「本当に構わないのですか、前澤社長」

「ああ。確かに彼の独創性はまだまだ未熟。だが、同時に大きな可能性も秘めていると思う。もし彼が可能性を力に変える機会に巡り会えずに、永遠に眠らせてしまったら。……それならば、僕がその手を取って、共に育て、未来に花開く瞬間が見たいんだ。……構わないか?」

友作のいつにもない熱弁に気圧されたのか、今まで大企業を引っ張っていた友作の慧眼への信頼か。スタッフ達も彼の考えに賛同し、最終選考は幕引きとなったのだった。

 

 

 

 

 

今思えば、"可能性"などまやかしだった。

刻み込まれたエクスタシーは、いとも容易く理性の皮を剥ぎ尽くし、かと思えばその抜け殻を盾に理論武装を図る。

夢芝居の残骸が、眼前に腐り爛れていた。

 

 

 

 

 

二.

「おはようございます。▪️▪️です。」

社長室に来客が訪れた。初期メンバーの一番乗りは、友作が抜擢した青年だ。ビジネススーツの上に黒色のロングコートを羽織った男は、年には少し不相応の精悍なイメージを感じさせる。彼は堂々とした足取りで、友作に近づいてくる。

「本日からよろしくお願いします!」

「前澤です。よろしく。ところで君、本当にスーツで大丈夫?君達の仕事は基本この経営企画室の中で行うから、仕事効率のためにも普段は自由な服装で出勤してもいいってことは伝えたよね。」

「はい、把握しています。ですがこの服装には、これから正社員として働くという覚悟を忘れないように、身を引き締める役割があるので。」

「そっか。でも、この仕事で君に大事にして欲しいのは柔軟な思考。それを見込んで君をウチに招き入れたんだ。だから、できれば君の楽だと思う服装で来て欲しい。君を緊張させてしまうなら尚更ね。」

「……はい。ありがとうございます、社長。」

 

 

……それにしてもいい声だな、彼。男性特有の低い声色、それが体の隅々に染み入り中から揺さぶられるようだ。にしても何だこの匂いは?彼はつい最近までフリーターだった、スーツを着る機会なんてそうそうないはずだ。なのに近くに寄ると"かぐわしい雄の匂い"が染み付いている。数年は着古さなければこのような年季の入った匂いは生まれないはず。何故だ、何故なのだーーーーー。

 

 

「……長……社…!」

「スゥゥゥゥゥ…………何故だ…………」

「社長!!」

「!?……す、すまない。取り乱した。とりあえず他の二人が来るまで、その席に座って。少し話でもしようじゃないか。」

 

友作は何を錯乱したのか、青年の首元に顔を埋めて、深く深呼吸をしていた。湯船に浸かったニホンザルのように顔を赤らめた友作は我に返り、己の行動に困惑しながらもひとまず立ちっぱなしだった青年と共に腰を下ろした。

 

 

まずい。

 

このままでは。

 

 

俺は、"奴らの掌の上"ではないか……。

 

 

 

 

 

 

一年前、お年玉キャンペーンのプレゼント配布直後。

友作は1週間の間、誘拐・監禁・輪姦された。

実行犯は著名人男性を肉便器に落とすことを目的とした愉快犯グループ"Aggressive Veil"(通称 AV)。

新興グループである彼らは黒のヴェールを纏い社会へ潜伏し、様々な手を駆使して男をメスに作り変える。

今年起きた本田圭佑の失踪事件を始めとした多くの事件に関連しているとされる、今世界で最も恐れられているテロ組織だ。

 

キャンペーンによって一躍知名度を上げた友作は、AVの初犯のターゲットに据えられた。

自宅に戻る友作の前に現れた男達は、麻酔を打ち込まれ彼をハイエースに押し込め、まずはアジトまでの道程を各々のチンポバトン睡姦リレー。

やっと友作が目を覚ますとそこは一面コンクリートの壁に覆われた部屋。汚れひとつもなく、ただ灰色の世界が八方に広がっている。アナルに感じる違和感に首を傾げながら、朧げな記憶を整理しようとしたその時、更なる地獄の火蓋は切り落とされる。

 

三日三晩、友作は4、5人に犯され、浸され、意識を失っても快感で起こされ、擦り切れて叩かれて吸われて押さえ付けられて引きずり回されて壊されて、萎れに萎れ切ってやっと休憩を与えられる。息を整えたのも束の間、別のチームが部屋に上がり込み、情事の繰り返し。

AVがこの犯行を行った時、「趣向を凝らして人間を肉便器にする」という指標はまだ定まっていなかった。ただの性欲の有り余った強姦ホモチームは、まずはとりあえず飽きるまで力の限り快感を貪り続けることを選んだのだ。

ひたすらに繰り返した絶頂輪廻の生々しい壁画が、飛び散り乾いた精子の黄ばみでコンクリートに描かれていった。それは芸術と呼ぶには余りにも悪辣だった。

 

 

だが。

慣れというのは恐ろしいものだ。

6日目、友作は快楽堕ちの瀬戸際に立っていた。

 

 

あと少しで俺は人間を辞させられる。

助けてくれ。

 

 

 

その叫びが届いたか。

 

 

 

「友作、お前もう飽きた。」

「ぇ……?」

「条件付きでお前を解放する。もちろん、サツにはチクるなよ。相応の"報復"をくれてやるからな。」

ついにAVは『グループ資金源の提供先の男に台本に沿った性的奉仕を行い、その様子をアダルトビデオとして記録する』ことを条件に解放を提案した。この行為には"支援者への返礼"、"映像によるグループの活動記録"、そして"友作への脅迫材料"としての役割があった。友作が輪姦について世間に公表した場合、このビデオをネットに流出させるつもりらしい。

支援者の"アルス"と名乗る男に口淫をさせられた友作だが、精神を麻痺させられた彼にもはや抵抗など一切なかった。「解放」という一筋の希望を掴むため、ひたすらにアルスを射精まで導き、夢芝居役者を見事に演じ切った。

最後の作品を撮りきった友作はようやく自宅へ帰宅し、自由の身に戻ることができたのだった。

 

しかし、その7日間は、友作という人間を決定的に変えてしまった。

今になるまで抱え続けた心の傷はもちろんあった。男達によってたかって、是非すら問われずひたすら悪意をぶちまけられ続けたのだから、当然のことではある。その悪意が汚染したのは、心だけでは済まなかったということだ。

一見彼の身体には、痣や切り傷が見受けられるわけでは無い。たとえ傷つけられたとしてもすぐに消えてしまうだろう。だが、その肉体は徹底的に変容を起こしてまで。快楽に堕ちる極限まで追い込まれたまま世に放たれたソレは、正気と肉奴隷レベルの肉体を両立していた。

それ故に、時折肉体が主張する渇欲が思考に逆らい暴走する。友作が青年の臭いを嗅ぎ出したのはこの為だ。それは脳の中枢でも制御が効かず、それどころか思考すらもうつらうつらと肉体に引っ張られてしまうこともある。

 

 

「さあ、君の同僚達もそろそろこの部屋に訪れるようだよ。これから訪れる"未来"に貢献する為に、まずは互いを知っていかなくちゃ」

 

 

いずれこの思考すらも、肉体に喰われてしまうかもしれない。

過去の恐怖に脅され、今の身体に蝕まれて。

俺に訪れる、全て苦を忘れて笑える、そんな未来などあるのだろうか。

 

友作は人知れず一抹の不安を追いやり、強引に行く末へ目を向けた。

 

 

 

 

 

「……君を救ってあげる時が来た。精巣に貯め続けた精子は、放出する時が一番気持ちいいものだろう?友作」